なあに、力がなかったら料理なんでできんわ。これでイノシシなんかもおろすんやからの。

小林健一さん

宝物:出刃包丁

小林健一さん

 勝山市北谷町(きただにちょう)北六呂師(きたろくろし)の出身です。90歳。高等学校を卒業して出征にさきがけて訓練所までは行ったけども、戦争には行かなかった。山登りが好きでな、白山も富士山も登ったもんだ。すごいかね? 山に入るときは食パンを一斤持って上がる。気圧の関係かわからんが、山小屋の食堂で出されたもんは一口も食べられん。が、山の上でも食パンだけは食べられる。一斤全部食べて下りてくるんよ。そいで元気つけとった。運ぶのも軽いからの。山登りは好きやったね。あの山(荒土から見える山)のてっぺんも行ったことある。

 散歩は毎日する。ここ(愛の家グループホーム勝山荒土)の人にも、「熊と遊んできた」なんて言うておるよ。
 昔はいろんな仕事をしたもんだ。発電関係は全部まわった。ダムの水力発電所の仕事が多かったな。山奥で水量調整の検査などをやった。いつもはジープで行くが、冬になると道があかんでしょ。ヘリコプターで上がるんや。
 海のほうにもおったな。東尋坊が有名な坂井市三国に3年ほどおってな。燃料を積んだ船が着くじゃろ。その燃料を発電機につなぐという作業で、間違いがあってホースが外れてしまって、誰も直せなくての。「来てくれ」ゆうて、休んどったのに呼ばれての。ホースをくくりに行ったんよ。ホースに水が入ったら燃料は全部ダメになるやろ。誰もやらんから、わしがやったんじゃ。

 三国が一番楽しかったな。越前カニも有名やで、とれたてのカニはうまいぞ。一度な、大物が釣れてしもうてな。ハマチのこんなや(1.5メートルほど)。ジープに乗せて、料理屋に持ってったんじゃが、主人はさばけんと言う。そいで、しかたなしに自分の家に持って帰って出刃包丁でスパーっと刺し身にしたんや。発電所のみんなにも持っていったら「こんな刺し身食べたことない」って喜んで食べとったわ。所長にも褒められたわ。
 こんなでかい魚をさばくときは、出刃包丁や。分厚さがないと、歯がやられてしまう。なあに、力がなかったら料理なんでできんわ。これでイノシシなんかもおろすんやからの。

 ここは、なんでもうまいけど、特に米がおいしいな。まじりけのない水やから、うまく炊けるな。
 子どものころの話? あんまり覚えとらんのう。でも山にずっとおった。いっぺんだけ熊に会うたことはあるで。熊はな、こっちが悪いことをせんかったら、何もせんのや。威嚇するから、向こうも怖くなって襲ってくる。山に同じ樹ばかり、しかも実のならない樹を植えるから、熊の餌がなくなって、降りてくるのは当たり前の話や。それを熊が出たとやかましく言う。そんな馬鹿な話があるか。
 それにしても、ここはええとこやな。長いことおるが、初めて来たわ。山道、上がってもええかの?

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