よく練習をしてると「やってんねえ」とか「まちがってるぞ」なんて姑さんに言われたっけね。
山口節子さん
宝物:大正琴
77歳になるの、喜寿ですよ。生まれも育ちも銚子。外川(とかわ)の出身で、うん十年前にここ長崎町に嫁いできました。ここいらはね、巻き網漁業が盛んでね。お父さん(夫)も漁師やってたの。揚繰(あぐり)っていう網でもって、イワシやイナダなんかを捕ってた。最初はさあ「朝送り出したら、その間はなんにもしなくっていい『海上サラリーマン』だから」なんて言われて、それなら大丈夫かな、なんて思ってたわけ。ところが実際は大変よ。朝って言っても夜中に近い時間にサイレンがウーウー! って鳴るの。近隣の漁師に「漁に出るよ」と知らせる合図なんだけどね、サイレンが家のすぐ上にあるもんだから、毎朝びっくりして飛び起きてたさ。
1993年に、本家のいとこ(社長)が巻網漁をやめることにして。当時わたしは50代だったから、いろんなことして働いたけど、1998年にお父さんがしらす漁を始めたんだよね。近所がみんなやってたからさ、「うちもやっぺー!」ってね。これも網で捕るの。お父さんが漁から戻ってきたら仕事しなきゃなんない。シラスは、庭に網をずらーっと広げて天日干しにしてね。夕方4時頃に終わるんだけど、そしたら次は配達ですよ。うちはあとからシラス始めたからさ、ご近所には売れないわけ。すでに買うところが決まっちゃってるから。だから、外に売ってたよね。長野や沖縄まで売ったね。ちゃんと箱を作ってさ、郵送してたのよね。そうこうしてたら、津波が来たんだよ。東日本大震災。ちょうど漁から帰ってきたら地震があってね。お父さんも心配して、船を沖に出しに行ったんだけどタイミングが遅かったのよ。船はテトラポットに上がって大破、お父さんは間一髪、堤防によじ登ってヘリで救助されたのよ。いまもピンピンしてるよ、おかげさまで。
あ、そうだ。今日は生シラウオが手に入ったんだった! 食べる? これはシラスじゃないのよ。シラウオ。わさびとお醤油で。ビール飲みたくなっちゃうね、でもしょうがない。ビールは飲ませません。お土産にもたしてやるほどないから、分けてみんなで食べちゃって。美味しい? あーよかった。
大正琴はね、シラス漁をやる前に始めました。1995年だったね。知人に紹介されて。やってもいいよなんて言われる前からもうやっちゃってたよ! よく練習をしてると「やってんねえ」とか「まちがってるぞ」なんて姑さんに言われたっけね。
わたし、実は魚がそんなに得意じゃなくて。嫁いでくるまでイワシもサンマもわからなかったの。魚もさばけるようになったら、実家の親から「姑はありがたいもんだね」なんて言われましたけどね。こっちは夢中で覚えましたよ。
ちょうど文化祭があるから、ほら、琴が全種類出てるでしょ。ソプラノ・アルト・テナー・ベースってあってね。だいたい一人ひとつやふたつ持ってればいいんだけど、わたしは大正琴、教えてるから全部持ってるの。先生の免許は7年かけてとりました。合奏するのがいいのよね。聴かせてもいいですか? (録音したものを再生して)こんなして演奏するのよ。これは全部で20人くらいかな。譜面には数字があって、指も書いてあるからその通りに押していけばできちゃうんです。弦を変えるのも全部自分でやります。アンプにつなげるとこんな感じ。「酒よ」と弾いてみましょうか。
さおりさん(RUN伴の実行委員長の宮内沙織さん)も生徒さんなのよ。RUN伴のことはさおりさんから聞いてたんだけどさ、文化祭があるからだまってたの。だけど、今回は行けそうだぞって参加させてもらいました。たくさん歩いてきつくないかって? 全然! だって、毎日ここから灯台(犬吠埼)まで散歩してるもん。RUN伴は7500歩だったけど、いつもはもっといくもんね。ちょろいもんですよ。散歩でなくても海で海藻とってるからね、銛でもって波に流れてくる海藻をすくうの。こうやって、さっと! 今日はちょうどないのよ。あるときなら持って行ってもらうんだけどね。またいらっしゃい。